
この記事の結論
- 複数の店舗を運営する会社では、採用の難しさは「応募を集めること」より、「店舗ごとにばらつく対応を、そろえること」にあります。ATS(採用管理システム)は、本部と店舗が同じ画面を見て、役割を分けて採用を進めるための道具です。
- 活用の場面は、本部と店舗の役割分担、店舗ごとに違う求人、シフト制への対応、繁忙期や新店の増員、店舗間の見える化の5つです。
- 導入は、1店舗・1つの機能から始めて、全店に広げます。店舗ごとの権限と、現場への教育を、先に決めておくことが成功の条件です。
店舗が増えるほど、採用の仕方は店舗ごとに違ってきます。返信の早い店と遅い店、記録を残す店と残さない店。本部は、どの店がどこまで進んでいるのかを、把握できません。
この記事では、複数の店舗を運営する会社と、これから店舗を増やす店舗経営者に向けて、ATSの使い方を、本部と店舗の役割分担を軸に説明します。
ATSの基本と必要性について

店舗を持つ会社の採用は、人の入れ替わりが多く、1年を通して続きます。担当する店長は、現場の仕事をしながら、応募への対応をしています。採用の負担は、店舗が増えるほど重くなります。
ATSとは何か
ATSは、Applicant Tracking System(応募者追跡システム)の略で、採用管理システムのことです。求人の作成、応募の受付、応募者への連絡、面接の日程調整、選考の記録を、1つの画面でまとめて管理します。ATSの基本は、ATS(採用管理システム)とは?中小企業がアルバイト採用で導入すべき理由と選び方でも説明しています。
従来の採用管理との違い
従来は、表計算ソフトで応募者を管理し、メールや電話で面接の日程を調整する会社が多くありました。この方法は、店舗が増えると、次の問題が起こります。
- 店舗ごとに管理のやり方が違い、本部が全体を集計できない。
- 応募の確認先が、求人サイトごと・店舗ごとに分かれ、見落としが起こる。
- 担当の店長が休みや異動になると、対応が止まる。
ATSを使うと、複数の求人サイトの応募が1つの画面に集まり、誰がどこまで対応したかが見えます。応募者への自動返信や、面接日の選択も、同じ画面で行えます。
業態別に見るATSの活用シーン
飲食店、小売店、サービス業など、店舗で働く人を採用する会社に共通する、5つの活用シーンを説明します。
本部と店舗の役割分担
多店舗の採用では、「本部が全部やる」でも「店舗に任せきり」でもなく、役割を分けるのが基本です。
| 業務 | 本部の役割 | 店舗の役割 |
|---|---|---|
| 求人の作成・掲載 | ひな形を作り、掲載先を管理する | 募集の条件(曜日、時間帯、人数)を伝える |
| 応募への最初の連絡 | 自動返信などの仕組みを整える | 自店の応募に、当日中に連絡する |
| 面接と合否の判断 | 基準と評価シートを共通にする | 面接を行い、合否を判断する |
| 数字の集計 | 求人サイトごと・店舗ごとの応募数、採用数、採用単価を集計する | 面接や採用の結果を、記録する |
| 個人情報の管理 | 権限と保管のルールを決める | 自店の応募者だけを扱う |
ATSは、この分担を、システムの上で実現します。本部は全店の状況を見られ、店舗は自店の応募だけを見られる、という使い分けができます。
複数店舗での一括採用管理
店舗ごとに、募集の事情は違います。繁華街の店舗と郊外の店舗では、必要な人の特徴や、働く時間帯が違います。ATSなら、店舗ごとの求人と応募の状況を、1つの画面で見られます。
応募者の住んでいる場所と、希望の勤務地を見て、別の近い店舗を案内することもできます。応募した店舗では募集が終わっていても、ほかの店舗で採用につながる場合があります。
シフト制を考慮した採用フロー
店舗の仕事は、時間帯によって必要な人数が変わります。応募の時点で、希望する曜日と時間帯を聞いておくと、店舗のシフトに合う人から連絡できます。
面接の日程も、応募者が候補日から選べる形にすると、店長が営業の合間に電話をかける必要がなくなります。シフトを前提にした採用の進め方は、飲食店のアルバイト募集を管理する4つの方法でも説明しています。
季節変動に対応した採用戦略
繁忙期(夏、年末年始、大型連休、セールなど)の前には、増員が必要になります。過去の採用の記録があれば、「いつ求人を出すと、いつ働き始められるか」が分かります。
たとえば、応募から働き始めるまでに1か月かかっていた場合、繁忙期の1〜2か月前に募集を始める必要があります。新店のオープンでも同じです。実際の採用戦略については、【多店舗展開する飲食店必見】避けて通れないパート採用管理の効率化ガイドでも解説しています。
店舗間のばらつきを見える化する
多店舗の運営で、見落とされがちなのが、店舗ごとの対応の差です。応募から最初の連絡までの時間、面接に来た人の割合、採用した人数を、店舗ごとに並べます。対応が遅れている店舗が分かるので、本部から声をかけられます。うまくいっている店舗のやり方を、ほかの店舗に広げることもできます。
飲食店・小売店のシーン別の使い方は、飲食店・小売店のATS(採用管理システム)の選び方でくわしく説明しています。
ATSの主要機能と業務改善効果
ATSの主な機能が、多店舗の運営でどう役立つかを、整理します。
| 機能 | できること | 多店舗でどう役立つか |
|---|---|---|
| 応募者情報の一元管理 | 複数の求人サイトの応募を、1つの画面に集める。応募者を条件で検索する | 店舗や求人サイトをまたいで、応募の見落としを防げる。過去の応募者に、再度連絡できる |
| 選考プロセスの自動化 | 自動で返信する。応募者が面接の日時を選ぶ。前日の確認連絡を送る | 店長が営業中でも、応募者が先に進める |
| コミュニケーションの記録 | 連絡や面接の履歴を、残す | 店長が変わっても、経緯を引き継げる |
| データ分析・レポート | 求人サイトごと、店舗ごとの応募数、面接数、採用数を集計する | 効果の低い求人サイトをやめ、費用を回す判断ができる |
| 店舗ごとの権限設定 | 店舗は自店の応募だけ、本部は全店を見られるようにする | 情報の漏れを防ぎ、安心して店舗に任せられる |
機能の名前や範囲は、サービスによって違います。必要な機能が、自社の体制に合うかを確かめてください。
ATS導入で得られる具体的なメリット

採用業務の効率化
応募者情報の入力、選考状況の管理、面接の日程調整にかかっていた時間が減ります。店舗が多いほど、減る時間の合計は大きくなります。
応募者体験の向上
応募後に自動で返信が届き、面接の日をスマートフォンから選べます。応募者は、連絡を待たされる不安が減ります。連絡が早い店は、それだけで選ばれやすくなります。
採用コストの見直し
求人サイトごとの応募数と採用数が分かるので、効果の低い掲載をやめられます。採用にかかった費用の出し方は、採用単価の計算方法で説明しています。
選考の質のそろえ方
選考の記録と、個人情報の管理を、ルールに沿って行えます。面接の評価を同じ項目で記録すれば、店舗によって採用の基準がばらつくことも防げます。
ただし、システムが選考を公平にしてくれるわけではありません。面接で聞いてよいこと、いけないことは、あらかじめ全店に共有してください。
ATS導入時の注意点とデメリット
| 注意点 | 起こること | 対策 |
|---|---|---|
| 初期費用と運用コスト | 店舗数に応じて、利用料が変わる場合がある。追加の機能に、別途費用がかかることがある | 申し込む前に、店舗が増えたときの料金と、追加費用の条件を確認する |
| 社内教育 | 店長や面接を担当する人が使えず、使われなくなる | 最初は使う機能を絞る。研修は、短い時間で何回かに分ける |
| 既存の運用との調整 | 今の表計算ソフトや、人事・勤怠のシステムと、二重管理になる | いつから、どちらを正とするかを決める。過去の応募者のデータの移行を、先に確認する |
| セキュリティと権限 | 応募者の個人情報が、必要のない人に見える | 店舗ごとの権限を設定する。データの保管場所と、退職者のアカウントの扱いを決める |
| 応募の数は増えない | 応募が来ない原因が、求人の内容にある場合、ATSでは解決しない | 応募が少ない場合は、先に求人の内容と掲載先を見直す |
これらは、導入の前に準備すれば、避けられるものがほとんどです。
自社に最適なATSの選び方
多店舗の運営で、ATSを選ぶときの比較ポイントです。
| 比較ポイント | 確認すること | 多店舗で特に大切なこと |
|---|---|---|
| 企業規模との適合性 | 店舗数、年間の採用人数に合っているか | 店舗が増えたときに、料金と機能が対応できるか |
| 店舗ごと・本部の両方で見られるか | 権限を、店舗と本部で分けられるか | 店舗は自店だけ、本部は全店を見られる |
| 求人サイトとの連携 | 今使っている求人サイトの応募を、自動で取り込めるか | 手入力が残ると、店舗で使われなくなる |
| 連絡と日程調整の機能 | 自動返信、日時の選択、前日の連絡ができるか | 店長が営業中でも、応募者が先に進める |
| 分析・レポート | 店舗ごと、求人サイトごとに集計できるか | 店舗間の比較ができる |
| 費用とサポート | 初期費用、月額費用、追加費用。導入時の設定と、運用の相談先 | 全店に広げるまでの支援があるか |
完璧なシステムはありません。「自社のどの場面で困っているか」の優先順位を決めて、判断してください。無料で使えるATSの種類と条件は、無料で使える採用管理システム(ATS)5選で比べています。
多店舗でのATS導入の進め方
全店に一度に入れず、次の順番で広げます。
- 今の状況を数える。過去3か月の、店舗ごとの応募数、面接に来た人数、採用した人数、応募から最初の連絡までの時間を記録する。
- 役割分担と権限を決める。本部と店舗が何をするか、誰が何を見られるかを、先に決める。
- 1〜2店舗で、1つの機能から始める。自動返信か、日程調整のどちらかで試す。
- 1〜2か月後に、数字を比べる。始める前の数字と比べ、効果が出ているかを確認する。
- 全店に広げる。うまくいった店舗の使い方を、手順書にして共有する。
店舗の店長が、新しい作業を負担に感じると、使われなくなります。「何が楽になるか」を最初に伝え、使う機能を少なく始めてください。
よくある質問
何店舗からATSが必要ですか?
店舗の数より、応募の数と、店長が採用にかけている時間で考えます。店長が応募への返信に追われ、遅れが出始めたら、検討する目安です。2〜3店舗でも、効果が出る場合があります。
店舗経営者が1〜2店舗の場合でも、使う意味はありますか?
応募が月に数件であれば、応募者の一覧を作り、当日中に連絡するだけでも改善します。手作業で追いつかなくなったときに、システムを検討してください。
店長が、システムを使いこなせるか心配です。
スマートフォンで操作できるものが増えています。申し込む前に、実際の画面を店長に見てもらってください。使う機能を2つに絞って始めると、負担が小さくなります。
導入すれば、採用が自動でうまくいきますか?
いいえ。ATSは、連絡や記録を助ける道具です。面接での見きわめと、合否の判断は、人が行います。
まとめ:効果的なATS活用のポイント
- 多店舗の採用の課題は、店舗ごとの対応のばらつき。ATSで、本部と店舗が同じ画面を見て、役割を分ける。
- 活用の場面は、役割分担、店舗ごとの求人、シフト制、繁忙期や新店、店舗間の見える化の5つ。
- 導入は、1〜2店舗で、1つの機能から。権限と教育を、先に決める。
- 始める前の数字を記録し、1〜2か月後に比べる。
ATSは、入れて終わりではありません。店舗や採用市場の変化にあわせて、使い方を見直し続けることが、効果を保つ条件です。システムに任せきりにせず、人の判断と組み合わせてください。
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